2020/06/04
循環する通貨 社会経済

資本主義の矛盾: 利益の蓄積が損失の蓄積を生む


循環する通貨~持続可能なベーシックインカム~が必要な理由。。
経済格差拡大の根本原因となるのは、誰かが利益を蓄積すると必ず、他の誰かが損失を蓄積することになる、貨幣経済の仕組みであり、利益の追求が必然的に経済格差を拡大する資本主義の矛盾です。

♦経済格差拡大の根本原理

日本の経済主体を企業、家計、政府、海外の四つに分けて、それぞれについて1年間の現預金の収支を出して、それらを全部足すと、ゼロになります。


企業の収支 + 家計の収支 + 政府の収支 + 海外の収支 = 0


お金(通貨)の収支は、合計するとゼロになる、ゼロサムということです。この式を、ゼロ式と呼びます。なぜゼロサムになるかというと。。お金が動く取引では、必ず支払いと受け取りは一致します(当たり前ですね)。なので、誰かが受け取って黒字になれば、他の誰かが必ず赤字になります。上記の式では経済主体を単純化して4つに分けましたが、企業の中でも黒字企業もあれば赤字企業もある。家計だって黒字もあれば赤字もあります。それら収支を全て合計すると、ゼロになる、ということです。
この式は、誰かが利益を溜め込めば、他の誰かが必ず損失を出すことを意味しており、経済格差の根本原理を表す式です。


♦資本主義の矛盾

資本主義の目的は「資本の蓄積」、つまり利益、黒字を出し続けることです。黒字企業やその経営層、株主などに利益は溜め込まれ続けています。毎年増え続けてついに個人の金融資産は1800兆円超となりました。富裕層が増え続け、富裕層の資産も増え続ける代わりに、中低所得層が赤字を出し続け、貯蓄残高ゼロ世帯が増加し続けています(こちらの論文の図4)。誰かが利益を溜め込み続ければ、他の誰かが損失を出し続けるのです。「資本の蓄積」という資本主義の目的を追求し達成すると、経済格差が必然的に拡大するということです。これが資本主義の矛盾です。


♦データが示す「通貨はゼロサム」

ゼロ式はデータからも立証されています。下記図は、家計(赤の棒グラフ)、企業(青線)、政府(緑線)、海外(点線)の4経済主体の、通貨の収支の推移を示しています(こちらの論文「付録4」から)。縦軸の収支のプラスは黒字、マイナスは赤字ということです。各経済主体の収支は変動していますが、4経済主体の「合計」(黄色丸印)は、ほぼゼロです。ゼロ式が成立していることがわかります。通貨はゼロサムです。誰かが利益を得れば誰かが損失を出すのです。


♦庶民が実感できる景気、実感できない景気

実は上の図で、「バブル景気」と、バブル崩壊後の「いざなみ景気」の違いが、庶民の体感景気の違いを表しています。バブル時代は、企業(青線)の収支はマイナス、つまり赤字です。バブルの頃、企業は、貯金を取り崩すか、借金をしていたのです。もちろんその頃、企業は莫大な利益を得ていましたが、その利益を上回る金額の投資をしていました。そのせいで、収支がマイナスだったというわけです。盛んな投資で企業がお金を使いまくったおかげで、家計も政府も黒字になれました。多くの人々が好景気を実感できたのです。
ところがバブル崩壊後の企業は、バブル期に膨れ上がった借金返済のため、利益温存に走りました。バブル崩壊後の企業の収支は急激に赤字を減らし、2000年代にかけて大きな黒字になっていきます。この利益で借金を返済したのです。企業が黒字になると同時に、家計(赤の棒グラフ)の黒字は小さくなっていきました。いざなみ景気ではバブル景気と比べて、家計の利益は小さく、しかも富裕層と中低所得層の間の格差が大きくなりつつあったので、庶民は好景気を実感できませんでした。


♦政府の赤字で拡大する経済格差

上の図で、バブル崩壊以降、企業に代わって赤字を出し続けているのが政府(緑線)です。通貨はゼロサムなので、誰かが利益を出したら、その利益は他の誰かが出した損失のおかげです。アベノミクスで過去最高益を出した大企業の利益も、増え続ける富裕層の個人資産も、政府が赤字で支出した通貨を得ているということです※。
一方で、地方を含めて行政が財政赤字になっているために、非正規公務員が増え、教育や医療やインフラや生活保護などの予算が減らされています。そして、これらの緊縮財政のせいで困るのはたいてい中低所得層です。富裕層は教育でも老後でも自分のお金でなんとでもできますから。政府の窮乏化で影響を受け窮乏化するのは中低所得層なのです。このように、政府の赤字は経済格差を拡大します。

※一番大きい赤字は政府によるものですが、個人で貯金を取り崩している人や借金した人の赤字分も、誰かほかの人の利益になっています。


♦「循環する通貨」で資本主義の矛盾を解消できる

今回の新型コロナウィルスによる未曽有の経済危機では、赤字国債による休業補償や救済策は必須です。そうしないと経済死者がたくさん出てしまいます。しかし、コロナ支援策のお金も、最初こそ中低所得層にも配られますが、彼らがそれを使ったあとは、そのお金は回りまわって最終的には黒字企業や富裕層に行き付いて、結局、経済格差を拡大します。だから、利益を多く得る富裕層などからお金を回収することが不可欠です。それを可能にするのが「循環する通貨」の仕組みです。
資本主義の矛盾を解消するには、無制限な利益の蓄積を止めることです。資本主義にはいいところもたくさんありますから。

湧志創造